【日 程】平成27年8月15日〜17日
【山 名】羅臼岳 【標 高】1,660.0m 【天 候】1日目、曇時々雨、2日目曇り時々晴れ、3日目晴れ後曇り 【メンバー 】福福 【タイム】 8/15 カムイワッカ湯の滝バス停9:34−−−9:44硫黄山登山口9:46−−−10:25旧硫黄採掘地10:39−−−11:30新火口12:00−−−13:21大滝前13:35−−−14:43稜線に出る14:49−−−15:15硫黄山15:28−−−16:02第一火口分岐16:03−−−16:26第一火口キャンプ指定地 8/16 第一火口キャンプ指定地7:30−−−8:11第一火口分岐8:15−−−9:16知円別岳分岐9:27−−−10:26南岳10:40−−−11:24二ツ池12:04−−−13:44サシルイ岳13:52−−−14:26三ッ峰キャンプ指定地 8/17 三ッ峰キャンプ指定地6:49−−−7:25羅臼平7:42−−−8:01岩清水8:02−−−8:31羅臼岳8:51−−−9:27岩清水9:31−−−9:45羅臼平10:13−−−10:54銀名水10:57−−−11:41弥三吉水12:12−−−13:18木下小屋13:39−−−14:33岩尾別バス停 |
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前回この山に登ったのは平成11年8月の事で、お天気は良かったものの頂上部分のみは雲に隠れていて、残念ながら山頂からの展望は得られなかった。
この時は一般的な岩尾別からの往復コースだったが、辿り着いた羅臼平にテントが一張強い風に揺れていた事と、か細い踏み跡が三ッ峰に向かって延びている景色が強く印象に残った。いつかはこの稜線を歩いてみたいという思いが、今回ようやく実現することになった。 はじめの漠然とした案では、岩尾別から羅臼岳に登り、途中一泊して抜けるというものだったが、色々な人のアドバスを受けて逆に硫黄山から羅臼岳に向けて縦走するという計画に改めた。ただ、逆コースにする場合は利用するシャトルバスの始発時刻が遅いため、よほどの健脚でない限り2泊を要することになるが、結果としてはそれが良かった。岩尾別からの1泊コースではかなり厳しい行程になって、多分山を楽しむ余裕は無かっただろうと思える。 一方、日程が増えるとそれだけまた心配事が増えてくる。それはヒグマのことで、北海道でもヒグマの生息数の多い知床は出会う確率が高いと言われている。去年までウトロに勤務していたY岸さんからは、遭うことを前提に行動しろと言われていて、コースに対する不安に羆への恐怖が上乗せされた状態で出発前から二人共かなり緊張していた。 一応、前日に羅臼の自然センターまで出かけて、熊よけスプレーをレンタルしてきたが、これのお世話にならない事を願うばかりだ。 8/15 当日の朝、ウトロバスターミナルから始発バスに乗り込むと、乗客の数はまばらだった。お天気があまり思わしくないからかなぁと思ったのだが、途中の自然センターからはどっと増えて乗り切れない人も出た。登山者は我々の他は単独の男性が一名だけで、ほとんど全員がカムイワッカの湯滝へ向かう観光客だ。以前に羅臼から縦走して最後に湯滝へザブンというプランも考えたが、観光客注視の中で素っ裸になる勇気はなく、この案はポシャった。 なお、カムイワッカの湯滝は今は土砂崩れにより一の滝までに立ち入り制限されていて、昔のような豪快な滝登りは楽しめないようだ。 バス終点から少し道路を歩くと硫黄山の登山口に着いて、そこから山登りが始まるわけだが、通行を禁止されている道路であるため、事前に使用申請をしておく必要がある。 ジグザグの登りが続き旧硫黄採掘跡までは比較的順調だったが、ここで雨が降り出してしまい早々とカッパを着込む羽目になった。その後露岩の目立つ登りになり、一度は鉈目に惑わされて右手のハイマツ帯に入り込んでしまったが、気がついて引き返した。ここは岩に付けられたペンキ印を忠実に追う必要がある。新火口には11時半に着いて昼食にしたが、予定より遅れ気味だ。一応、16時までのキャンプ地到着を目指しているのだが、どうだろうか。 新火口から上は道が悪くなる。ハイマツやハンノキが被って体やザックに引っかかる上、足元は濡れた岩で足場が悪く、その上急坂と来ている。そのやっかいな樹林を抜けた所が硫黄沢の出合で、下山時に沢を下りすぎないようにロープが張ってある。7月中ならまだ雪渓が残るのだろうが、今はほとんど涸沢となった沢を歩きやすそうな場所を選びながら登る内に滝にぶつかった。一つ目の滝はほぼ直登したが、2つ目の滝で登路に迷った。Y岸さんが言っていたように非常によく滑る岩で、途中すれ違った登山者の内、二人までもが目の前で転倒している。うっかり取り付いて転落でもしたら大変なので、対岸に巻き道を探そうと少し登ってから振り返ると、右岸に踏み跡を発見できた。こんな風に注意深く探せば道は見つかるが、雪渓が溶けた後は荒れていて、特に下りの場合は正確なルートを見つけるのは難しいように感じる。 やがて沢を詰め切り稜線に近づくと、木杭でルートが示さるようになった。強風とガスの中でも進むべきルートがはっきりすれば精神的にぐっと楽になる。稜線を進む内に木杭が二手に分かれていたので、一方が頂上へ、もう一方はトラバースの道であろうと判断して、とりあえず頂上へ向かうと、やがて岩場の登りになりそれを登り切ると誰もいない山頂に着いた。ガスに覆われた薄暗い山頂で、ここを越えて下る道があるかどうか少し探ってみたが、確信が持てなかったので来た道を戻ってトラバースルートに入り、少し登り返した所で第一火口への分岐標識を見つけた。ここからキャンプ指定地までの下りがかなり長く感じたが、最後に雪渓を踏んでこの日の泊まり場に到着した。 誰も居ないと思っていたが、羅臼側から縦走してきたガイド山行4名のテントと仕事がらみらしい単独男性のテントがあり、そこへ我々のテント、我々と相前後して登ってきた単独男性のテント、それとかなり離れた場所に遅れて到着した二人組のテントと意外と賑やかなテン場になった。 この夕刻に珍しい光景を目撃した。上空はガスに覆われて暗いのに、下部は霧が晴れてそこに夕日が差し込んで、周りの岩壁がまるで焚き火の明かりを当てたように真っ赤に燃え上がったのだ。束の間のことでカメラを構える事も思いつかないほどの見事な光景だったが、今振り返ると写真に収めなかったことが悔しくて仕方がない。 8/16 翌朝、3時の目覚ましで起きてテントから出たら一面が白い霧で覆われていて何も見えず、諦めて寝直し次に目覚めたら5時20分を過ぎていた。ちょっと遅目だが今日の行程は短いので8時までに出発すれば大丈夫だ。最初に単独男性が我々より1時間以上前に出発し、次に二人組、それからガイド山行組で最後に我々がテン場を出たのが7時半だった。仕事がらみらしい男性は定着のようだ。霧が晴れかかって青空も出ていて、この分なら良いお天気になりそうで気分爽快だ。 途中で休憩しているガイド組を追い越して分岐に出たとこで、「こっちは電波が入りますよー」と大声で叫んでいる男女二人組に遭遇した。そこから見ると硫黄山の方からこちらへ駆けてくる男性の姿と、丁度硫黄山のトラバースルートの中間辺りに男性らしい二人組の姿が見えた。叫んでいた男性の話では単独行者が落石を受けたか滑落事故を起こしたらしく、たまたま通りかかったそれぞれ別パーティの登山者の内、一人が遭難救助を要請するためにこちらに向かっており、他の二人が遭難者に付き添っているとの事だった。 やがて到着した男性に我々に出来ることがあるか聞いてみると、「動かさない方が良いと思いますから」と特に助力は求められなかったので、我々は遭難現場へは向かわず縦走を続けたのだが、救助のヘリコプターを認めたのはそれから1時間半後、更にガスが湧いたり消えたりの天候に手間取っているのか、1時間近く硫黄山の周りを旋回し続けていた。この事故で更に気を引き締めたのは当然だが、山の事故では救助が容易でない事を改めて思い知らされた。なお、この時の遭難者は死亡したと後で知った。 この日に我々が通るルートの内、ガイドから危険場所というか注意を要する箇所は馬の背だけと聞いていたが、幸い昨日の様な強風は吹いていなかったので安心して通過できた。ただ、岩尾根から馬の背に出る時にザレていてスリップしそうな嫌な箇所があり、そこは緊張した。馬の背を過ぎ知円別岳の山腹をトラーバースする途中に知円別岳ピークへ向かう道もあったがこの登りは省略した。 直ぐに分岐標識に到着してここで進路が90度右に折れて低いハイマツ帯からお花畑の道に変わる。実は我々が馬の背近くを通過中に、この分岐から真っ直ぐ廃道の東岳へ向かう人影を認めていた。正しい縦走路である南岳方面へは標識にはっきりと示してあるので、間違って入ったとも考えにくいのだが、その登山者の事はちょっと気になった。 南岳へ向かうコースは既に花が終わってしまったのが残念だが、最盛期なら正に雲上のプロムナードという風情だ。やがてNHKの「日本百名山」で羆が目撃された湿性のお花畑を緊張感を持って通過し、緩やかな南岳山頂から二ツ池に下った。池はすぐ近くに見えたのだがハイマツや足場の悪い岩場が続き思ったよりも時間がかかったが、やがて二ツ池湖畔に到着しここで昼食にした。この場所もキャンプ指定地であり数張りのテントスペースがあるが、水は池から得ることになり水質は劣る。 羅臼からの縦走者で元気のある人はサシルイ岳北面の雪渓の水(ここは滔々と流れていた)を汲んで運んできているようだ。二ツ池からオッカバケ岳を過ぎ、サシルイ岳のピークに着くと、待望の羅臼岳が眼前に現れる。少し雲が多めでスッキリしてはいないが、今日は大体こんな天気なので仕方がない。ここで出会った羅臼岳から縦走してきた単独男性はここからの眺めにいたく感動していた。 サシルイ岳からゆっくり下れば今日の宿泊地である三ッ峰のキャンプ指定地に着く。心配していた水は細いながらも流れ続けていたので一安心だ。この日のキャンプ地は羅臼方面からの5人パーティと同じく羅臼方面から単独女性、それと我々。それに少し遅れて硫黄山方面から男性の二人組がテントを張った。後で分かったのだがこの二人組が硫黄の遭難者に付き添っていた人達だった。 8/16 翌朝、二人組と5人組はそれぞれ自分達の目的地に向かって出発して行き、我々は三番手でキャンプ地を発った。最後に残った単独女性は今日は第一火口で泊まると言っていた。 三ッ峰の鞍部まで緩やかに登り、そこから羅臼平に下る。青空をバックにした羅臼岳の姿が美しく、要塞のような山頂部分の岩場も明瞭だ。羅臼平では食料類はフードロッカーに、他の荷物は石碑の横にデポし、サブザックだけの身軽になって山頂に向かう。 羅臼平から30分程ハイマツ帯を登ると岩の割れ目から水が滴り落ちている岩清水に着く。冷たくて非常に旨い水で、前回来た時も据え置きのコップで何杯も飲んだが、今回も行き帰りにたらふく飲んだ。登路はその上で一旦傾斜が緩んでから最後は岩場の急登になる。頂上近くで丁度降りてくる例の二人組に又会って少し言葉をかわした後、待望の山頂に到着し前回は見られなかった山頂からの眺めを満喫した。 半島の両側は雲海が広がっていたので海を見下ろすことは出来なかったが、硫黄からこっちの歩いてきた山々がはっきり見て取れ、3日間の縦走を振り返ることが出来た。しかし、感激に浸っている間にも続々と登山者が登ってくる様子なので、狭い山頂は明け渡して我々は羅臼平に戻ることにする。 羅臼平からザックを担ぎ直し、雪渓が消えて意外と急な大沢を下り、立派な携帯トイレブースのある銀名水で一休み後、極楽平を経て弥三吉水で昼食。この後急坂を下って木が茂ってほとんど海の見えなくなった「オホーツク展望台」を過ぎ、ゴールの木下小屋へは13時過ぎに到着した。まだこの先岩尾別のバス停まで約4kmの道路歩きを残しているものの、山歩きとしてはこれで終了で、緊張が一気に解き放たれたように感じた。 ヒグマにも真新しい糞にも出会うことはなく、悪路に悩まされた縦走路も振り返ってみれば、やり遂げた充実感に変わっていて、良い山行だったなぁと思えてくる。おそらくここを訪れることはもう無いと思うが、去年から始めた百名山チャレンジのお陰で良い山歩きが出来たと満足いっぱいの今回の山行だった。 トップページへ戻る
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